Interview & Report

山岸 慎平 Shinpei Yamagishi

山岸 慎平 Shinpei Yamagishi BED j.w. FORD(ベッドフォード)

BED j.w. FORD Designer

石川県出身。2011 Spring / Summer Collectionを 展示会形式で発表する。2017 Spring / Summerに初めてコレクションを東京で発表。2019 Spring / SummerにPitti Uomo 94にゲストデザイナーとして参加。adidas Originalsとのコラボレーション商品を発表。2019 Autumn / WinterからMilan Fashion Weekにてコレクションを発表し、2020 Autumn / Winterでは初めてパリでコレクションを発表した。

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BED j.w. FORDが2020年1月パリにて「MAISON MIHARA YASUHIRO」ショー会場をジャックし、20AWコレクションの発表を行い1年半が経つ。TOKYO FASHION AWARD受賞後、2018年6月から発表の場を海外に移したブランドは、今回3年ぶりにRakuten Fashion Week TOKYOでランウェイショーの発表を予定している。世界的なパンデミックがクリエイションにも大きな影響を与えたと話すデザイナーの山岸氏に、期待が高まる22SSコレクションについて、ブランドの展望についてインタビューした。

2020年1月にパリでゲリラショーを開催された後、世界的なパンデミックが発生しました。その後、BED j.w. FORDのビジネス状況はいかがでしょうか?

パリでのショーは、ブランドを広く知ってもらえる良い機会となり、引き合いの話も多くもらえたのですが、その後すぐにパンデミックが起こり、不完全燃焼な感じです。オファーをもらっても、実際に会って話をするまでは、やはり取引とまではいかず、来年の1月にはどうにかパリに行って話を進めたいなと。売上自体は、リモートでのセールスやコミュニケーションにやりづらさはありますが上がっています。とはいえ、国内外で店舗クローズの話など耳にすることも増えたので、コレクションブランドとしての危機感は強く楽観視出来ない状況ではあります。

パンデミックはクリエイションにも影響がありましたか?

パンデミックが起きて、思考が止まりました。何を目的に洋服を作ればいいのか、全くわからなくなった。作った洋服を見てもらった時の反応が楽しいですし、その瞬間を大事に考えているので、見せることができない状況が本当にストレスでした。一時期は洋服を作りたくないとまで思いましたし、パンデミック直後のシーズンでは型数もかなり減らしてコレクションを製作しましたね。
ブランドやデザイナーとしての思想に従うより作業として製作する感じが強く、今までの取り組みを見直し、プラットフォームの連携を強化しものづくり面でのビルドアップを図りました。時間の経過とともに、パンデミック後を見据えてシフトチェンジが出来るようになり、今は洋服を作っていく手応えを感じています。

22SSコレクションのテーマを教えてください。

テーマは「epiphany」で、絵日記みたいなイメージですね。epiphanyは、美しい瞬間がごくまれに詩人に落ちてくることを意味する言葉です。厳しい状況で洋服離れが起きてしまっている地方都市もあり、前回の展示会後に「一緒に頑張りましょう」という気持ちを込めて取引先へ一輪の花を送ったんです。そうしたら花を受け取った取引先さんが続々インスタで写真をあげてくれて。それがとても嬉しくて感動したんですよ。こういう些細なことで気持ちって高揚するんだと改めて感じて。それから当たり前にしていたことをメモしたり写真を撮ったりしてコレクションのテーマを作り上げていきました。庭で枇杷が実っていくことや誰かに何かをしてもらったこと、個展で感銘を受けたことなど、世界やブランドがどうなろうが変わらない感情、熱量を受ける一つ一つに目を向けた、そんな続いていく日々での美しい瞬間から着想されたコレクションです。

今回3年ぶりにRakuten Fashion Week TOKYOへ参加されることになりましたが、今の思いを聞かせてください。

僕たちが東京で一番最後にクリスチャンダダとランウェイショーを発表したときと気持ちはずっと変わらず、とてもワクワクしています。コロナがあったからか、はたまた自分が少し歳を重ねたからか、ショーに関して考え方が少し変わってきはじめて、緊張感がある張り詰めたショーではなく、今はとにかく楽しくやりたいと思っていて。暑い中来てくださる方々が見てよかった、楽しい時間を共有できたと感じたいですし、感じてもらえるようなショーにしたいです。

山岸さんに取ってショーはどのような意味を持っていますか?

これまでは自分の力を誇示したり、見せつけるためにやって来た節も正直あったのですが、今は強がらなくても良い自信がついたので、来場してくださった方々に喜んでもらうための場と捉えています。作り上げた洋服は、そのものを見えてもらえれば高く評価してもらえる自信があるので、ショーでは一つ一つのピースを見てもらうというよりは、ムードや心地よい空気を感じて欲しい。綺麗で線の細いモデルを起用することがこれまでは多かったのですが、そのあたりのセレクトも変わってきています。

ブランドとして勝負するステージが変わったように感じますね。東京でのランウェイショーがとても楽しみです。Rakuten Fashion Week TOKYOとしては、持続可能なファッションのあり方を注視しているのですが、山岸さんはどのように取り組まれているのでしょうか?

とても難しい議題で。正直ブランドとしては考えていないです。歩いて5分で日本海という環境に生まれた僕には田舎で本当に熱心に取り組んでいる同級生が数名います。それを知っているからこそ軽々しく口にしちゃいけない部分もあり、欧米のブランドビジネスでSDGsが主流だからやるというのは本末転倒だし、リサイクル生地に再生する過程で発生する水の分解方法など不都合な真実には目を背けてSDGsを逆手に取ったファッションビジネスが横行していたり、何かがズレているような気がして。天然の原料だけでは表現できない色や生地等さまざまな瞬間もあります、なによりSDGsありきでモノを作るのは自分の思想に合わない。僕ができることは一人の作り手として無駄に在庫を抱えない、破れれば直す。そんな当たり前に丁寧でいることだけです。

山岸さんの嘘がない姿勢は、ブランドとして強力なメッセージになりますね。最後に、ブランドとして、デザイナーとして今後の展望を教えてください。

デザイナーとしては、言い訳のない、思い描いた素直な活動を続けていきたい。思いに沿った行動をしようとすると、時に企業としてのジレンマが生じますが、「なぜファッションをやっているのか」という問いに立ち戻り初期衝動を貫いていきたいです。

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