Tamae Hirokawa 廣川玉枝
SOMARTA
イッセイミヤケを経て、2006年「SOMA DESIGN」として活動開始、同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げる。同年9月、2007年春夏 東京コレクション・ウィークに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。2008年 Milano Salone Canon「NEOREAL」展やDESIGNTIDE TOKYOにて開催したTOYOTA「iQ × SOMARTA MICROCOSMOS」展でインスタレーション作品、インテリア家具を発表。
SOMARTA(ソマルタ)は、女性の身体の美しさにフォーカスし、服を纏うことでさらに美しさを引き出すような、女性的な美を追求しているブランドだ。ボディコンシャスでありながら、セクシーさよりもアート的な美しさを感じさせる服は、大人の女性たちを魅了している。「とても女性らしく、強そうだけど優しい感じもある。大人と子供の中間」と理想の女性像を語る廣川さんに、最新コレクションのことやファッションへの熱い思いを語っていただいた。
2011年春夏コレクションのテーマ「MICROCOSMOGRAPHIA」(ミクロコスモグラフィア)は、あまり聞きなれない言葉ですね。どういったきっかけで、テーマとして取り上げようと思われたのですか?
廣川:前シーズンは「好奇心の部屋」をテーマにしていましたが、その元となったのが「MICROCOSMOGRAPHIA マーク・ダイオンの『驚異の部屋』」展という、アメリカの現代美術家マーク・ダイオン氏と東京大学のコラボレーションによる展覧会でした。その後、展覧会を監修されていた東京大学の西野嘉章さんの著書『ミクロコスモグラフィア マーク・ダイオンの[驚異の部屋]講義録』を読み、今回はMICROCOSMOGRAPHIAという言葉を引用させていただき、テーマにしようと思いました。
どちらも、”部屋の中の一部” のような、ある一部を切り取ってフィーチャーしている。前回のコレクションは実際に人の目で見える生物や鉱物など、純粋にわくわく、どきどきする感動を表現したシーズンでしたが、今回は小宇宙のようなミクロの世界をイメージしていて、見る視点を移すことで、より視野を広げていこうという試みでした。よく見ると立体的なテクスチャーの光るプリントが施されているなど、テキスタイルにこだわったものづくりをしました。見えるという受動的な感動ではなく、見るという好奇心から生まれるあらたな感動を表現したかったのです。
もともとSOMARTAでは、無縫製のニットウエア「スキンシリーズ」を展開されていて、皮膚や細胞といったディテールにこだわっているイメージがあります。
廣川:好きなものがあまり変わらないのだと思います(笑)。ずっと人類学や生物学が好きで、それを服に落とし込んでいます。
この2011年春夏も、ファイナルを飾るにふさわしい圧巻のショーでした。発表後の周りからの反応はいかがでしたか?
廣川:「感動した」とおっしゃっていただくことが多く、うれしかったですね。特に、後半のブルーのビーズが施された総手刺繍のスキンシリーズや、終盤の薄羽根のような2ルックが人気でした。
廣川さんがデザイナーを目指されたきっかけは?
廣川:もともと美術が好きで、何かものづくりができる仕事をしたいなとおぼろげに考えていました。高校生で進路を考える時に、専門的な職業に就きたかったこともあって、美術大学に進学しようかと迷いましたが、ファッションデザイナーの道を選び専門学校に進みました。
美術部でしたが、昔から人物が好きで、人の絵をたくさん描いていましたね。ファッション雑誌もよく見ていて、美しい女性の姿にとても惹かれ、自分もこんな美しい女性像を表現できるような仕事ができたらいいなと思いました。
学校卒業後にイッセイミヤケに入社され、SOMA DESIGNとして独立されたわけですが、振り返ってみていかがですか?
廣川:イッセイミヤケには8年ほど在籍していました。レディス、メンズコレクションとも携われ、ニットも担当していました。クリエーションに寛容な会社だったので、その分多くのことを学べましたね。はじめはメンズ、のちにレディスのコレクションを担当していましたが、(アパレルの)仕事の全体的なサイクルもわかったので、次へのステップアップとして独立することを選びました。ちょうど30歳だったこともあり、20代は会社に勤めたので、30代は自分の好きなことをやろうと思いました。
SOMA DESIGNを立上げ当時は私だけでしたが、現在は音楽やグラフィックを専門とするメンバーもいます。ファッションに限らず大きな意味でのデザインをやりたかったので、SOMA DESIGNはアパレル会社というより、デザイン会社というスタンスでいます。ファッションの能力を活かしながらも、もともとアートや建築、プロダクトデザインにも興味があったので、ファッション以外の分野での取り組みもできたら面白いなと考えています。
実際にSOMARTAのコレクションでは、ブランドイメージやグラフィック、音楽に映像に至るまでSOMA DESIGNがプロデュースするかたちで発表しています。
2011年春夏に初めてショーをされたメンズ&レディスブランド「MOLFIC(モルフィック)」(デザイナー:森崇)もSOMA DESIGN所属ですが、SOMARTAとはまた違う方向性のブランドという感じがしました。SOMARTAとしては、メンズ展開を考えられていないのですか?
廣川:デザイナーの森も同じSOMA DESIGN所属ですが、SOMARTAとMOLFICはまったく違う性質のものだと思っています。MOLFICは服へのアプローチがプロダクトデザインに近く、ものづくりも工業用の機械を使うなど、ソマルタとは違う手法やこだわりで表現しているブランドです。
SOMARTAのメンズ展開については、そうですね…… 実際、要望は多く、若い方を中心に男性ファンもたくさんいらっしゃるので、いずれは展開したいと考えていますが、もっと(レディスと)見る視点を変えてやらなければと思っています。
今の東京のファッションを取り囲む環境や、消費者の意識についてどう思われますか?
廣川:普段、ショップをリサーチしたり、街を歩いている人をよく見て感じることもあります。
価格を突き詰めていくというのはどんな産業でも同じですが、ファッションもサイクルが早くなり、服が流されていく感覚があって、服がかわいそうだと感じています。私が体験してきたファッションというのは、表面だけではなく心も豊かにするようなもの。上の世代のデザイナーたちの服づくりに影響され、彼らが作った服を着ることで感動した経験もあります。そんなデザイナーたちの思いを継いで、人を感動させる、それは服そのものかもしれないし、ショーなのかもしれないですが、ファッションで感動を与えるようなことをしたいと思っています。
コレクションの発信方法として、ショーもされている理由とは?
廣川:SOMARTAはまだ直営店がないので、ショーには顧客以外に、バイヤーさんやプレスの方などを呼んでいます。ショーが良かったら色々なメディアにも取り上げられ、SOMARTAを知らない人にも知ってもらえるということが大きな要因でした。ですが、今はコレクション誌など媒体自体が少なくなっています。ショーをやれば雑誌に載るという面もあるかと思いますが、メディアが少なくなっている現状を私たちデザイナーも危機的に受け止め、発表の仕方を変えていかなければいけないと思っています。それは、ランウェイじゃないかもしれない。どう発信していくか、もっと自分たちで考えていかなければならない時期だと感じています。
廣川さんが学生時代に好きだったブランドや憧れていたデザイナーはいましたか?
廣川:出身は神奈川県ですが、出身地にはそんなに “ファッションをしている” という人がいなかったので、デザイナーどころかブランドのこともあまり知りませんでした。専門学校に通うようになり、いろいろなものに触れ、ブランドやデザイナーを知るようになりました。当時、カラフルで派手なファッションをしていた時期もありましたし、社会人になってからも勉強のために国内外問わず色々なブランドを着ていましたね。
やはりイッセイミヤケやコム デ ギャルソンの服には感動しました。自分はもともと美術が好きだからかもしれませんが、人を感動させるものがファッションにもあったから続けられているのだと思います。
学生時代に東京コレクションブランドのお手伝いをするチャンスがあったり、「モードのジャポニズム展」や「身体の夢展」(ともに京都服飾文化研究財団)といった大きな展覧会に触れたりして、ジャポニズムや身体に纏わるデザインというものにすごく感銘を受けました。色々なブランドのランウェイショーを資料室のビデオで見たりしていました。
(三宅)一生さんや川久保(玲)さん、(山本)耀司さんなどが世界への礎を築かれましたが、それを次の世代へと歴史的に受け継いでいくことが、今のデザイナーとしての責任です。それとともに、自分たちも、今までにない新しいものを作って残していかなければならないと考えています。
今後、どのようにSOMARTAの服を発信していきたいと思っていますか?
廣川:ファッションは興味が湧く部分がないと、なかなか入りにくい世界だと思います。ファッション業界以外の方にも興味を持ってもらうために、ダイレクトに届くような発信をしなければいけないと思っています。ウェブは有効な手段だと思いますが、大海原のようなとてつもなく広い空間なので、埋もれてしまう恐れもありますが……。
SOMARTAではすでにCGアニメーションを使ったショーをやっていますが、映像の世界に興味があります。アニメーションと実写を使ったショートフィルムのようなものを作りたいと思っていますが、これからいろいろなことにチャレンジしていきたいですね。
SOMA DESIGNならばすぐにでも実現可能だと思います。SOMA DESIGNとしては、現在どんな活動をされていますか?
廣川:現在SOMA DESIGNでは、レディス、メンズ、アクセサリーと合わせて3つのブランドをファッション分野で発信していますが、デザイン活動ではプロダクトやアパレルブランドのデザイン、商品のSPRなども手掛けています。 高岡や会津若松と産地リソースを活かしたプロダクトを作っています。伝統的な技術はとても興味深く、新しいものづくりはとても刺激になります。
今年初めに会津塗の漆器ブランド「BITOWA(ビトワ)」では、BITOWA DÉCORラインを発表しています。2011年1月のメゾン・エ・オブジェ(パリ)では、そのBITOWAからmodernラインを、高岡プロダクトも2011年中にそれぞれ発表予定です。
次回、2011-12年秋冬シーズンはどんなコレクションになりそうですか?
廣川:博物館が大好きで、ここ数シーズン、博物館にあるような動物やミクロの世界を表現してきましたが、このシリーズは面白く興味が尽きないので、もっと深めていきたいと思っています。具体的にはまだこれからですが(笑)。