Interview & Report

TOMO KOIZUMI トモ コイズミ

TOMO KOIZUMI トモ コイズミ 小泉 智貴

TOMO KOIZUMI Designer

2011年、大学在学中に自身のブランドを立ち上げる。2019年初となるファッションショーをニューヨークで開催。2019年毎日ファッション大賞選考委員特別賞受賞、BoF500選出。2020年LVMHプライズ優勝者の1人に選ばれる。2021年東京オリンピック開会式にて国歌斉唱の衣装を担当。2021年毎日ファッション大賞を受賞。

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ユニークネスな存在として日本を代表するブランドである「TOMO KOIZUMI」。Rakuten Fashion Week TOKYOにもこれまで3シーズン参加をしたブランドは、2023年東京、ミラノ、パリ、シンガポールで発表を続けその活躍は華々しい。世界中から動向が注目されるブランドを率いるデザイナー小泉智貴氏にブランドのこれまで、そして今後について話を伺った。

現在の肩書きはデザイナー、スタジオアーティストなんですね。いつからスタジオアーティストと名乗られるようになったのでしょうか?

スタジオアーティストって、日本では聞き慣れない言葉だと思うのですが、ギャラリーで展示をするような絵画や立体作品をつくるアーティストを指しています。元々は自分のことをドレスデザイナーと名乗っていたのですが、絵画も始めたりして最近はスタジオアーティストとも言うようにしていますね。9月にパリで発表した作品のように、アートとファッションの境界線の中間にあるものを作りたい。ファッション業界に身を置いていますが、僕の存在はファッションの王道ではなくオルタナティブだと思うんです。ファッションでもアートでも作るものでインパクトを表出しながら、独自の活動スタイルを探っているところですね。

ファッションとアート、ものづくりとして違いはありますか?

アートを始めた頃は「アートはこうあるべき」と意識してスタートしたのですが、今までの自分の延長線上でアートも取り組むべきなのかなと気づいてから、ファッションとアートのものづくりで差異はないかもしれません。僕の活動を通して、手を込めて作られたドレスがアートとしての価値も持つという認識が広がればいいと思っています。時間をかけて手法も凝らして生まれたものなのに、ファッションだから、実用品だから、デザインだからという理由でそれ以上の価値がないと言うアート界の人がいたり、何かの模倣でパパッと作られたものがアートだからという理由で法外な価格でトレードされていたりと、正当な評価がされていないことが多いような気がしていて。カテゴリーが違うだけで価値が変わるという問題を問いていきたいんですよね。9月のコレクションはこの問いを皆さんと一緒に考えていくプロセスとして共有できたらなと思って発表しました。70年代、80年代のファッションがその時代背景と相まってマスターピースとして現在評価されているように、今あるものを今判断することができない世界です。時間が経って正当に評価されるものであるから、今すぐ答えが出たりはしないのですが、当事者として問題意識を持ち続けて行きたいと考えています。

小泉さんにとって「ファッション」とはどのような意味を持っていますか?

僕の中では「ファッション」と「クローズ」は違うものだと思っていて。僕がやっているファッションは、人が着用できる形をしたアート、美しいものであって欲しいと思って取り組んでいます。自分が作っているものと着ているものは別の意味があっていいと思います。

ブランドの強みはどう認識していますか?

パッと見たときのキャッチーさと説明の要らない楽しさでしょうか。アートでもファッションでも予備知識があるから分かる玄人的なものもあるとは思いますが、パッと見たときに心を奪われる良さに僕自身が惹かれるので、本能的な表現や相手が考える余地のある仕上がりを目指しています。

ブランドを続けていく中で、困難に感じたことはありますか?

作ることには困難が付き物ですし、困難があって当たり前だけど、美しいものを作り続けたいと言う想いで続けてきましたね。キャリアでの困難は色々ありますが、ニューヨークのコレクション後に世間から求められたRTWを「自分にはできない」と断るというのは特に難しい時間と判断でした。色々な方に相談し、才能はあるのに消えてしまった過去のデザイナーたちを省みて、自分を守らなくてはいけないタイミングだと考え、「NO」を言う勇気を持ちました。

コレクションのインスピレーションはどのように得ていますか?

自分のソースとしてずっと変わらず好きなものに、毎回進化させているラッフルの技術や色、質感とその時々で気になっているものを加えている感じですね。変わらないということが価値になるブランドもあると思っていて。得意を伸ばして見えてくる強さは、世界的にも認識してもらえる表現になっていくような気がしています。

ブランドとしてのビジネスはどのように展開されているのでしょうか?

衣装としての提供、エンターテイメントとしてのスポンサード、コラボレーションによるデザインフィーが大半を占めています。サム・スミスのようにピースを買ってくださる方もいますが、とても手間がかかるので実際の販売は多くありません。また、組織体制自体も小さくしており、必要なときに必要な外部委託をお願いする形です。

ブランドの今後の展望を聞かせてください。

今までチャンスをくれた方がたくさんいるので、続けていくこと、やめないこと、ブランドを継続していくことがまず大切ですね。量より質を求めて、自分らしいダイナミックな表現を見せていけたら。また、想像を超えていくことが出来るようなコラボレーションにも挑戦してみたいと思っています。
スタジオアーティストとして来年は海外ギャラリーでの個展も考えていますし、12月9日からはTERADA ART COMPLEXⅡ内にあるギャラリーYUKIKOMIZUTANIで展覧会を開催予定で、パリで見せた作品も併せて展開します。今後は自身のクリエイティブな渇望感をキープするためにも、アート、ファッションと1年おきに注力して活動していけたらと考えています。

ファッション業界の若手育成にも携わっていらっしゃいますよね。ファッションを志す若年層へアドバイスお願いします。

日本はものづくりをする場所としてはとても恵まれていますし、個々の技術は非常に高いと思うので、がむしゃらにやるのではなく力の入れどころを考えてみて欲しい。国内で勝負するつもりなら海外ブランドのコピーでも良いかもしれませんが、海外を目指すなら世界と対等に戦えるユニークさとオリジナリティを見つけて欲しい。トライして見せながら磨いていく。出来ないかもしれないけどもがき続けること。「他の人には出来ないけど自分には簡単に出来てしまうことにヒントがある」というのを自分も悩んでいた時に本で読んだことがあって。そういうことがその人の特異さになり、ユニークで強さになる。それに気づけると、誰かの真似じゃなくて自分のオリジナリティが出せるのではないでしょうか。そして、流行に追随するのではなく流行を理解しておくこと、情報の取り入れ方のリテラシーをしっかり持つことも大切です。
売れることを意識するとどうしてもマイルドなものづくりになってしまうと思いますが、自分がロールモデルとなりこういうオルタナティブなデザイナー像もあり得ることを知ってもらえたら嬉しい。ファッション業界は自由なクリエイションが求められる割に画一的なところもあるので多様性を認め、才能がある人たち、若手をサポートして行きたいと思っています。

Interview by Tomoko Kawasaki
Photography by Daichi Saito

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