羽石 裕 Yu Haneishi ANEI(アーネイ)
TOKYO FASHION AWARD 2019受賞デザイナー
1985年生まれ 国内ブランドで企画、パターン、生産管理を経験。2018年7月ANEI設立
[ Instagram ] https://www.instagram.com/anei_official/
ヨウジヤマモト、ビズビムといった世界的な日本ブランドで経験を積み、2019年春夏シーズンにユニセックスブランド「アーネイ」を立ち上げた羽石裕氏。豊富な経験のもとで培われた巧みな素材使いや独自の カラーリング、日本の衣服文化からの影響を感じさせるパターンメイキングなどを特徴とするものづくりが評価され、デビューコレクション発表直後に応募した TOKYO FASHION AWARD 2019を見事受賞し、ヨーロッパでの展示と東京でのランウェイショーを早々と実現させた。大型新人として周囲からの期待が高まる中、デザイナーの羽石氏にインタビ ューを行った。
ファッションデザイナーを志すようになったのはいつ頃からですか?
中学生の頃からファッションが好きで、アンダーカバーやナンバーナインなどのブランドを雑誌でよくチェックしていたり、実際に買って着たりしていました。そのうち、自分でも洋服をつくってみたいと漠 然と思うようになりましたが、実家が祖父母の代まで呉服屋だったこともあり、割と自然な流れだったかもしれません。専門学校でファッションを学んだ後、ヨウジヤマモトに就職しましたが、仕事を通して洋 服をつくる楽しさをどんどん感じるようになっていき、デザイナーをやりたいという思いが強まっていきました。
ご自身でブランドを立ち上げるまでの経緯を教えてください。
ヨウジヤマモトでは、企画やパターンの仕事を計6年ほどしていましたが、先輩にも恵まれ、社会人としての姿勢から洋服のつくり方、工場とのコミュニケーションなどあらゆることを教えていただきました し、毎日が新鮮で刺激にあふれていました。同時に、仕事をしていく中で少しずつ、もし自分がデザイナーだったらこういう選択をするかもしれないと思う瞬間が増えてきて、100%自分がつくりたいものを形に するためには、ブランドを立ち上げる必要があると思うようになっていきました。ただ、他のブランドのつくり方も学んでみたかったので、もともと好きだったビズビムなどを手がけている会社に転職して4年ほど働き、30歳を過ぎたタイミングで独立することにしたんです。
2つの会社での経験は、羽石さんにどんな影響を与えましたか?
どちらも世界の第一線で活躍をしているブランドだったので、僕自身も独立するなら世界を目指したいと思うようになりました。それぞれ洋服のつくり方は全く異なりますが、どちらもカリスマ性があるデザ イナーのもと、良いものをつくっていくためにチーム一丸となっている非常に良いブランドだったので、将来的には自分もそういうつくり方をしていきたいと考えています。
ブランドとしてどんな洋服をつくっていきたいと考えていますか?
シルエットや素材感などを大切にしながら、着てくださった方がリラックスできるような洋服をつくっていきたいと考えています。また、ファーストコレクションとなった2018年春夏シーズンでは、薄いピン クやベージュなどのカラーを基調とし、ソフトで優しい雰囲気を表現していましたが、色で勝負をしていけるブランドになりたいと思っています。日々生活をしている中で、こういう感じの色が良いというもの が自分の中に蓄積されているので、それらを空気感として表現していくことで、何かを感じ取ってもらえたらうれしいです。
毎シーズンのコレクションはどのような流れでつくっていくのですか?
特に明快なテーマを決めるのではなく、こんなスタイリングをしてみたいというイメージや気分のようなものが漠然と自分の中にあり、そこから必要なアイテムを考えていくことがほとんどです。デザインの 段階では、自分が着ている洋服から、昨年生まれたばかりの子供の洋服まで、普段から目にしているさまざまな洋服を頭の中でミックスしながら考えていくことが多いです。
素材に関してはいかがですか?
アーネイは大きめのシルエットの洋服が多いのですが、あまりハリを持たせたくないので、レーヨンやリネン、テンセルなどの柔らかい素材を使ったり、ポリエステルにしても少し落ち感があるものを使うよ うにしています。そこに、他のブランドではあまり使わないような色を合わせて提案することを心がけています。また、ゆくゆくは着物の生地を使ったり、日本の伝統的な文化や技術を取り入れた素材使いに力 を入れていきたいと考えています。
初のランウェイショーとなった2019年秋冬シーズンのコレクションでは、和装を思わせるパターンのアイテムも見られましたね。
構造的な話をすると、洋服と和服の中間のようなファッションを提案していきたいと考えています。いまはまだブランドの規模的に高級な着物などの生地を使うことはなかなか難しいのですが、パターンなど の部分では研究を続けて、自分なりに解釈した日本の衣服の個性を表現し、海外の洋服文化に影響を与えられるようなものをつくっていきたいと思っています。
海外という点では、デビューから間もない時期にTOKYO FASHION AWARDを受賞し、2シーズンにわたってパリでの展示も経験されましたね。
立ち上げ1年目のブランドには到底できないような経験をさせてもらうことができ、自分のキャパシティが一気に広がりました。パリでの最初の展示では、多くのバイヤーさんにピックアップしてもらえましたが、結局実売には1件もつながらなかったんです。非常に落ち込みましたが、それが自分の現状であり、足りなかったものを見つけていくことが、これからの指針になると感じています。今後は自分のスタイルを確立し、強みを伸ばしていくことでブランドを成長させていきたいですし、そのためには自分の殻を破っていかなければならないと思っています。
Interview by Yuki Harada
Photography by Yohey Goto(インタビュー撮影)