ファッション通が教えてくれるRakuten Fashion Week TOKYOの楽しみ方とは シトウレイ/栗野 宏文
ストリートスタイルフォトグラファー・ジャーナリスト/株式会社ユナイテッドアローズ上級顧問 クリエイティブディレクション担当
シトウレイ
加賀生まれ、東京在住。早稲田大学卒業。
日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト。
SNS総フォロワー約20万人(2024年8月現在)。
『何を着るか、ではなく、どう着るか』をモットーに毎シーズン世界各国のコレクションへと赴き、ランウェイ・オフランウェイ問わず、本人の審美眼に適ったスナップフォトを発信中。
2020年10月“Style on the Street : From Tokyo and Beyond”をアメリカRizzoli社から世界同時出版。
出会った人々から愛されるひととなりがふんだんに散りばめられた YouTube「シトウレイチャンネルNEW!!!」も好評配信中。
栗野 宏文
1953年生まれ。大学で美学を学び卒業後はファッション小売り業界へ
スズヤ、ビームスを経て1989年にユナイテッドアローズを設立し常務取締役就任
バイイング、ディレクション、ブランド監修からチーフクリエイティブ・オフィサー就任
2008年に役員退任後は上級顧問(現在まで)
2004年に英国RCAから名誉フェローを授与。
2015年からLVMHプライズ審査員(現在まで)
2023年、毎日ファッション大賞、鯨岡阿美子特別賞を受賞
2024年、イタリア・ピッティ・ウオモ協会より生涯功労賞を受賞
‘ここのがっこう’やFFP等で次世代育成にも関る。
またTokyo knit projectやJapan Quality project等で国内企業のサポートも行う。
シトウレイ
[ Instagram ] https://www.instagram.com/reishito/
[ Youtube ] https://www.youtube.com/@rei_shito
[ X ] https://x.com/stylefromtokyo
[ Threads ] https://www.threads.net/@reishito
栗野 宏文
[ Website ] https://www.united-arrows.co.jp/index.html
[ Instagram ] https://www.instagram.com/unitedarrows_official/
[ X ] https://twitter.com/UnitedArrows
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[ Youtube ] https://www.youtube.com/user/UnitedArrowsOfficial
会場提供:
THE NIKKA WHISKY TOKYO
住所:港区北青山3-5-27 1階
営業期間:8月7日~12月25日
営業時間:月~金: 17:00~23:30、土日祝: 14:00~23:30
[ Website ] https://www.nikka.com/thenikkawhiskytokyo/
毎シーズンRakuten Fashion Week TOKYOでのショーを観覧し自身の目線で発信を続けるストリートフォトグラファー、ジャーナリストのシトウレイ氏と50年にわたり国内外のファッション界を先導してきたユナイテッドアローズ上級顧問栗野宏文氏に、開幕を間近に控えるファッション・ウィークについてそれぞれが期待していること、楽しみ方について対談形式で聞いた。
シトウ氏(下記、S)
今日は会期を間近に控えたRakuten Fashion Week TOKYOでの、ショーの見方をファッションのプロである栗野さんに伝授してもらおうと思います。まず、栗野さんはショーをどういうポイントで見ていらっしゃるか聞きたくて。シートに置かれているデザイナーノートには目を通しますか?それともノートは見ずにご自身の初見の感覚を重視してショーを見ますか?
栗野氏(下記、K)
デザイナーノートはブランドによっては用意ない場合もありますが、置いてある場合は必ず読みますね。何も頭に入れずにショーを観たい人もいらっしゃると思いますが、バイヤーとしてはコレクションのエッセンスを掴んだ上でお客様に伝えたいので、デザイナーやブランドが何を考えて提案しているのか理解した上でショーを見たいんです。単純にショーを楽しむことに重きを置くなら、美術館に行ったり映画を観るように、予備知識なく見る方が感性に響くと思います。
また、会場の雰囲気や、ショーがスタートするタイミング、クロージングの音楽でデザイナーの考えを理解しようと努めますし、ファースト&ラストルックを必ずチェックしますね。
S)
割と知らない人が多そうな視点ですね。
K)
モデルが個人名で売れるようになったからファーストルックに話題性でキャスティングされることもありますが、東京の場合は良い意味でモデルの知名度でというより、服そのもの、デザインそのものでブランドがルックを決めています。
S)
ファースト、ラストのルックはデザイナーの伝えたいことが最も詰まっているということですか?
K)
僕はずっとそう思って見て来ました。静かにフェードアウトしたいブランドも中にはあると思うけど、ファースト、ラストとはデザイナーのシグネチャーになる強いルックが登場します。
S)
この記事を読んでくださる方は、オンラインでショーを見ている方も多いと思いますが、その場合も参考になりそうな見方ですね。初めてショーを見るという方が楽しめるポイントも教えてください!
K)
モデルでいうと、キャスティングの中でコレクションを代弁しているモデルが必ず登場します。ファーストルックだったり、デザイナーが一番見て欲しいと思っているルックを着ているモデルですね。そのモデルが2回、3回と着替えて出てくる場合は、それぞれのルックにもメッセージがあると思っていて、ストーリーを想像しながら見てもらえたら面白いんじゃないでしょうか。また、自分自身が着たいか、買いたいかという見方もしてほしい。ウィメンズのショーだったとしても、自分が女性だったら着たいかな?と考えながら僕は見ています。
S)
ファッションショーって、トリッキーな服が多かったりしますが、その見方ができるとショーが自分に近しいものになりますよね。自分がバイヤーになった気持ちで見ると解像度が上がるというか。
K)
その逆で「なんちゃって評論家」でショーを見る人もいて、自分が立論づけた結論に寄せたがる方もいますね。
S)
例えば、ダイバーシティが流行っているとしたら、ダイバーシティっぽい原稿として書けるように、見方を引き寄せることですよね?私もやらないように気を付けていますが、引っ張られることがあります。ファッション・ウィークも中盤過ぎると全体のテーマが見えてきますが、意識的にテーマから離れるようにしていますね。
そういえば、昔びっくりしたことで、栗野さんからルイ・ヴィトンのショー前に「マーク・ジェイコブスは次パジャマを出すよ」と話を聞いたら、そのショーで本当にパジャマのルックが登場しました!栗野さんはどうしてショーの内容を予告できるのでしょうか?
K)
分析的に物事を見ていると先がわかるんです。僕はマーク・ジェイコブスがルイ・ヴィトンのディレクターになった初回からショーを見ているので、彼が煌びやかなものに惹かれていたり、シンプルな方向に戻りつつあるとか、彼のマインドを流れで捉えていました。パジャマのショーの時は、それまで日常に近いものを出すシーズンが続いていたり、マーク本人のパジャマライクな私服を目にしたこともあって、そう予測したんだと思います。ショー自体、部屋っぽい演出でしたしね。
S)
ルックをしっかり見ることも大事だけど、ショー全体のイメージを掴んで、その連続性を追うことも大切ということですね?
K)
ショーを見る人は、そのブランドの服を着ていることもあるから、次はこんな洋服を着たいなと思いながら見ることもあると思います。同時に、供給するデザイナーの気持ちも半分理解できるという姿勢を持てる人は優れたバイヤーになれるでしょうね。批評家は無責任な立場でもなれますが、バイヤーはそうはいきません。自分が買いたい、着たい、こうなってくれたらいいなと思いながらショーを見るという気持ちが大切です。
身に纏って楽しめるのがファッションで、彫刻や絵画などのアートは纏って歩けない。尊敬できるクリエイションを肌に身につけて歩けるのがファッションの醍醐味です。
S)
栗野さんは、ショーでヘアメイクにも注目しますか?
K)
僕自身はメイクに詳しくはないけど見ますね。ナチュラルメイクが多い時代ではありますが、年に数回びっくりするようなメイクもあります。顔を出さないことがパフォーマンスになることも。
S)
先シーズンのパリコレウィメンズでは、顔を出さないショーを多く見た気がします。顔を覆ったり、前髪が長かったり、モデルは誰?みたいな。ファッションショーがレッドカーペット化していて、洋服を見ず、セレブの顔を見に来ている人が増えていて。その現象をシニカルに表現するために、モデルの顔を隠しているように感じました。
K)
顔を隠されたら絶対に服を見ます。モデルが美人なのか、ハンサムなのかは関係なくなり、集中してもらうためには正しい方法ですよね。
S)
栗野さんがRakuten Fashion Week TOKYOで楽しみにしていることは?
K)
海外のショーは、マネーゲームでセレブリティやソーシャルメディアに寄りすぎている感じがします。東京のショーは、いわゆる大物ブランドや大物のセレブリティが登場しないかもしれないですが、その分純粋に洋服を楽しめるんです。「洋服を楽しみにしている人たちに向けて、ブランドが洋服を見せる」という光景は本当に気持ちがいい。なので、可能な限り今回もショーを見たいと思っていますね。
S)
初参加のブランドや20周年のブランドがあったり、様々な発表があるので今回シーズンも楽しみですよね。あと、私がRakuten Fashion Week TOKYOで良いなと思っているのは、会場に行ったらワンチャン入れる可能性があること。学生さんなど、ショーを見てみたい場合は是非足を運んでみてほしいと思いますね!
Interview by Tomoko Kawasaki
Photography by Daichi Saito