Interview & Report

サラ・ソッツァーニ・マイノ

サラ・ソッツァーニ・マイノ Sara Sozzani Maino

ソッツァーニ・ファウンデーションクリエイティブディレクター

2030年に向けた持続可能な開発目標を支援するサーキュラーファッションサミット諮問委員。2009年、フランカ・ソッツァーニとともにクリエイティブな才能を支援する「VOGUETALENT」を設立。また、LVMHプライズ、ウールマーク・プライズ、インターナショナル・タレント・サポートなど、数々のファッションコンペティションに審査員やコンサルタントとして定期的に参加。2018年9月より、新世代のデザイナーを支援するカメラ・ナツィオナーレ・デラ・モーダ・イタリアーナのインターナショナルブランドアンバサダーを務める。2021年5月、モンテカルロ・ファッションウィークからPositiveChange賞を授与。

Rakuten Fashion Week TOKYOでは24 A/Wシーズンより、本格的に海外からのバイヤー・プレス誘致を再開している。9月7日に閉幕した25SSシーズンでは、海外の若手デザイナー育成に携わるサラ・ソッツァーニ・マイノを招聘し、会期中多数のショー、展示会にアテンドした。6年ぶりの来日を果たした彼女に日本のファッションシーンはどのように映ったのか、話を聞いた。

久しぶりの来日とお聞きしましたが、東京のファッションシーンをどのように感じましたか?

まず6年ぶりに来日できたことがとても嬉しいですし、東京のファッションシーンには大きなエネルギーを感じています。若い才能が多く登場していることが非常に魅力だと思っていて、Rakuten Fashion Week TOKYOのカレンダーにももっと若いブランドの参加があってもいいのではないでしょうか。ファッションショーはもちろん大事ですが、今は他の展示手法も重要な時代になってきているので、若手ブランドらしい独自性の高い発表コンテンツを組み込むことも必要かもしれません。

ショーではない発表コンテンツとは、具体的にどのような手法に可能性を感じていますか?

若い人たちの感覚に任せた、より自由なプレゼンテーションスタイルをもっと見たいと思います。展示会、パーティ、パフォーマンスなどでもコレクションを表現する機会は作れますよね。1箇所の会場で全てをまとめたプレゼンテーションではそれぞれの個性、パーソナリティを感じ辛くなってしまうので、多様なベニューでブランドの世界観を示す手法が海外から来たバイヤーたちには魅力的に映るのではないでしょうか。

欧米市場から見た、現在の日本ファッション市場に対するイメージは?

日本はやはりストリートファッションの印象が強く、欧米のデザイナーがストリートのリファレンスを探すときは、アジア特に東京、ソウルをチェックすることが多いですね。TOD’Sのように、TikTokやYouTubeにおいてもアジア、日本マーケットは非常に重要視されていて、日本の視聴者を意識しているブランドも多数あります。また、コムデギャルソン、JUNYA WATANABE、sacai、UNDERCOVER、KENZO、ISSEYMIYAKEのような偉大なブランドを輩出している国でもあるので、日本の若手デザイナーへの注目も常に高く、ネクストデザイナーは誰?と注視されています。ただ、一方でリスクを取らない国だでもあるので、ファッション産業に関しても世界の動向からすると遅れを取っているような印象もありますね。

滞在中、多くのブランドを訪問していただいていますが、今回特に印象に残ったブランドを教えてください。

今の時代は洋服ができるまでの経緯を表現することが大切で、HIDESIGNはファッションショーを超えたプレゼンテーションスタイルを用いてそうした点を提案しており非常に良かったと思います。pillingsは興味深いニットブランドで、デザイナーに対しても大きな才能を感じますね。今後もっと発表を見てみたいと思うブランドとしてKAMIYA、BALMUNGも印象に残りました。

KAMIYA 2025 S/S collection

BALMUNG 2025 S/S collection

ショーやアトリエ訪問を通して、日本らしさ、東京らしさを感じるクリエイションはありましたか?

クリエイション面で日本らしい、東京らしい要素を総体的に感じることはありませんでしたが、それぞれのデザイナーが細やかなリサーチを重ねていていることは特徴と言えるかもしれません。HIDESIGNはテクノロジーの側面でリサーチを重ねていますし、pillingsは狂気とも思えるほどの繊細さでニットを追求していました。また、どうしてそういったデザインを志すのか、バックグラウンドやプロセスについてデザイナーと話すことで、日本のローカリティが見えてくることはあります。

今後海外で成長が見込める日本ブランドは?

私が今回拝見したブランドの中では、CFCL、KHOKI、HIDESIGN、pillingsですね。これからショーを拝見する予定のsulvumにも期待しています。

pillings 2025 S/S collection

日本のデザイナーに対して必要だと思うことはありますか?

日本のデザイナーはもっとコミュニケーションを取るべきだと思います。SNS、メディアを活用して積極的に海外市場に対してコミュニケーションを取る必要がありますね。文化的にもシャイな国民性でしょうし、トークイベントでご一緒した山縣さんも「日本は閉じられた小さな島国だ」ともおっしゃっていましたが、そうした環境から抜け出し世界の顧客層に向けてアクティブな発信が重要な時代です。ブランドのポジショニングにもよりますが、自分たちのストーリーをしっかり伝えていくために、次世代を担う若い世代に対してブランドとしてコミュニケーションするべきでしょう。

海外で活躍できるブランドになるために必要な要素は?

今はブランドが社会的な責任をどう担うのかが重要な時代ですが、日本のブランドに対してはその姿勢が見えづらいと感じています。リサイクル、アップサイクルなど持続可能性やサステナビリティのテーマを掲げているブランドはいくつかありましたが、エシカル、人権などのテーマ性が見えてくるブランドはあまり見当たりませんでした。次世代を意識したときにこうした要素は必要不可欠になりますし、個人的にも社会的なテーマの有無がシビアな判断材料になっており、それらを持ち合わせていないブランドに対しては興味を持つことができません。洋服が好きだから作っているという理由だけでは通用しないと思っていますね。また、モノを増やす必要がない時代、実際に新しい洋服が必要ない時代において、どういう経緯でこのデザインに至ったのか、なぜこの洋服を作る必要があったのかというストーリーは重要になります。
今回の滞在初日に「STYLE WARS TOKYO」というスタジオを訪問したのですが、ここのオーナーはとても興味深く、モロッコのアーティストとコラボレーションしたり、アップサイクル、リサイクルの活動に取り組んでいました。また、HIDESIGNはサステナビリティを掲げてはいませんが、洋服の作り方、デザインプロセスは社会の責任を負った一種のスタイルを感じます。

HIDESIGN 2025 S/S collection

日本の若いデザイナーに対して、伝えたいメッセージはありますか?

とにかく、自分の価値観をしっかり持ってください。周囲の意見に耳を傾けながらも、社会的正義感のもと自分の信念、やりたいことをしっかり持つことが大切です。新しい洋服を作り出す必要性がない時代だからこそ、自分がどんな価値を提供していく必要があるのか、しっかり考えを持っていて欲しい。

Interview by Tomoko Kawasaki
Photography by Yohei Goto

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