Interview & Report

江崎 賢 Satoshi Ezaki

江崎 賢 Satoshi Ezaki 皮革製品デザイナー

Istituto Marangoni Scholarship – Supported by THE FASHION POST, Tokyo vol.2

1984年佐賀県生まれ。
文化服装学院を卒業後、アパレル企業に勤め2年後に独立。
独学でレザークラフトを学び、アパレルの企画以外にもレザー雑貨等の企画も行う。
革製品の分野においては自身での製作や手縫い工場との連携で、手作業に主軸をおいた丁寧な商品開発に励んでいる。

将来、MBFWTへの参加や国内外での活躍が期待されるデザイナーを、ファッションライフスタイル・ジャーナル「THE FASHION POST」と日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)が推薦し、イタリアのファッション&デザインの専門学校「マランゴーニ学院」への留学プログラムへの参加をサポートする「Istituto Marangoni Scholarship ― Supported by THE FASHION POST, Tokyo」。その第2期生参加デザイナーに選出された江崎賢氏が、先日、約2週間のイタリア滞在を経て帰国した。 アパレル企業で経験を積んだ後、独学でレザークラフトを学び、自身のブランドを起ち上げた江崎氏に、これまでのキャリアやものづくりのこだわり、そして、現地イタリアでの経験などについて話を聞いた。

ファッションに興味を持ったのは、いつ頃からですか。

高校生の頃です。当時、地元の佐賀県にあるセレクトショップでアルバイトをしていたのですが、そこで洋服の面白さを知り、自分もファッションの仕事をしたいと考えるようになりました。高校卒業後に上京し、文化服装学院でデザインを学びました。

 

専門学校を卒業してからのキャリアについても教えて下さい。

アパレル企業に就職し、新しいレディスブランドを起ち上げる事業部に、アシスタントデザイナーとして入りました。そこで2年ほど働いた後、別の会社でメンズブランドの企画の仕事などを1年間経験してから独立し、レザークラフトのブランドをスタートしました。

ezaki_02.jpg

レザークラフトは独学で習得した

レザークラフトには以前から興味があったのですか。

もともと革という素材は好きでした。専門学校時代は、革については基礎しか学んでいなかったので、革製品の手縫いなどの技術は独学で覚えていったのですが、小物が多いレザークラフトは、洋服と違って完成までの時間が短いところも自分には向いていました。

 

革という素材には、どんな魅力がありますか。

革には、動物が生きていた時のシワや傷、虫さされの跡などが残っていて、一枚一枚表情が違います。生き物を扱っているという感覚は他の生地にはないものですし、だからこそ素材を大切にしたいという思いは強いです。また、動物の皮をなめすところから、手作業で製品をつくるところまで、一切機械を使わずに完結できることも、レザークラフトの魅力のひとつです。

 

作品づくりにおいては、どんなことを大切にしていますか。

やはりオリジナリティは大切にしたいですね。これだけモノがあふれている時代なので、自分たちにしかできない武器というものをしっかり伝えていく必要があると思っています。また、僕は以前からアンティークが好きなのですが、その理由のひとつとして、道具自体の仕組みが見えるということがあります。現代の製品には、技術やテクノロジーがプラスティックのカバーに覆われてしまっているようなモノが多いですが、自分としては、レザーという素材をベースに、技術が見えたり、仕組みが分かるようなアイテムをつくっていきたいという思いを持っています。

 

江崎さんの商品は、国外にも展開しているのですか。

はい。フランスやアメリカ、デンマーク、中国に卸しています。パリのファッション・ウィーク中に開催される合同展示会に毎回参加していて、そこで見てくれた方から発注されることが多いですが、日本に来た時にたまたまショップで商品を手に取ってくれた方から連絡をいただいたケースもありました。

バイヤーやお客さんからの反応はいかがですか。

国内外とも大体同じで、「使い方がよく分からない」という反応がとても多いです(笑)。と言っても、それは悪い意味ではなく、皆さんニコニコしながら、どうやって使うのかを考えている感じです。自分たちとしてもそれが一番の狙いで、商品を通してワクワクしてもらいたいという思いを強くもっています。お客さんの中には、自分たちが提案している使い方を理解した上で、あえてそれとは違う使い方をされている方もいるようです。

今回、「マランゴーニ学院」のデザイナー留学プログラムの第2期生に選出されましたが、現地ではどのようなコースを専攻されましたか。

マランゴーニのミラノ、ロンドン、パリの3校舎から好きな場所を選ぶことができましたが、やはり革製品の伝統があるイタリアに行きたいという思いが強かったので、ミラノを選択しました。その中で、素材のつくり方から、マーケティング、マーチャンダイジングまでを学ぶことができるファッションプロダクションコースを専攻しました。僕の他に参加していた10数名のメンバーは、南米、アメリカ、北欧など国籍はバラバラで、授業に臨む姿勢も日本とはだいぶ違って新鮮でした。良くも悪くも真面目な日本人に比べると、のびのびと自由に学んでいる印象が強かったのですが、その中でも熱心にメモを取ったり、先生に対して積極的に質問をしたりと、集中力の高さを感じました。

 

現地での授業内容について教えて下さい。

チームをつくり、今、店頭に並んでいる特定のブランドのアイテムや型数、素材、プライスなどを分析し、それをもとに来シーズンのイメージまで予測し、それらをプレゼンするという課題に取り組みました。全体的に、自分が日本で学んだ内容よりも実践的で、ビジネスに直結する授業が多かったので、とても勉強になりました。また、ラグジュアリーブランドのプリントやジャカードなどを請け負っている大手の生地工場へ見学に行くこともできました。

ezaki_05.jpg

マランゴーニ学院付近(左)/授業風景(右)

滞在中は、どんな場所に足を運びましたか。

平日は、午前か午後のどちらかが授業だったので、それ以外の時間を使って、ミラノにあるさまざまなブランドのショップをリサーチしたり、金具屋やアンティークショップなどにも足を運びました。また、皮革産業が有名なフィレンツェの空気感にはどうしても触れておきたかったので、休日を使って行ってきましたが、長い産業の歴史に直に触れられたことは、非常に良い経験になりました。フィレンツェで革製品を扱っているお店を覗くと、商品ラインナップの幅が非常に広く、自由にものづくりがされている印象を受けました。日本で革製品というと、やはりバッグや財布などが多いですが、何でも革でつくってしまうような視野の広さは刺激になりました。

ezaki_05.jpg

留学中、ミラノで滞在した部屋

 

今回の留学プログラムを振り返って、今どんな感想を持たれていますか。

自由な雰囲気で授業を受けたり、ものづくりをしている人たちと多く触れたことで、自分自身ももっと視野を広げ、自由な表現をしていけるようになりたいと感じました。また、これまでも海外で展示会をする機会などに感じていたことですが、自分を表現するための手段として、やはり言語というのは非常に大切だということを改めて感じました。僕自身、あまり英語は得意ではないのですが、たとえ英語が話せなかったとしても、まずは海外に出て言葉の壁にぶつかることは大切ですし、それによって初めて、先にある可能性も見えてくるのだと思います。

 

ezaki_03.jpg

今回の経験は、今後の江崎さんの活動に影響を与えそうですか。

そうですね。短期間ではありましたが、マランゴーニ学院に留学させていただいたことで、イタリア製品の素晴らしさを改めて知ることができましたし、より興味が強まりました。同時に、自分たちが住んでいる日本という国の強みを活かしていくということにも取り組んでいきたいと考えるようになりました。これまでは日本の技術にそこまで目を向けていなかったのですが、これからは革だけに限らず、和紙などの素材や染めの技術などをよく知り、自分のものづくりとつなげていきたいですし、それを海外にも伝えていきたいと考えています。

Interview by Yuki Harada
Photography by Yohey Goto

Go to Top