石橋 真一郎 Shinichiro Ishibashi KUON(クオン)
TOKYO FASHION AWARD 2018受賞デザイナー
文化服装学院卒業。丸の内の老舗テーラーで修行後、パリコレクションブランドのパタンナーとして入社。2014年に独立し、フリーのパタンナーとして数々のブランドを手がける。2016 S/SよりKUONのデザイナーに就任。
[ Website ] https://www.kuon.tokyo/
[ Instagram ] https://www.instagram.com/kuon_tokyo/
創業者兼ディレクターの藤原新氏と、デザイナーの石橋真一郎氏によって、2016年にスタートしたKUON(クオン)。使い古しの布やぼろ切れなどをつぎはぎし、野良着や肌着、寝具などとして使い続けてきた日本人の暮らしの知恵であり、近年ではヨーロッパを中心にアートとしても高く評価されている「襤褸(ぼろ)」にフォーカスし、現代的にアップデートするクリエーションによって、国内外から注目を集めている。裂き織りや刺し子、泥染めなど日本各地の文化や技法を集結させた服づくりを展開している同ブランドのデザイナー・石橋氏に話を聞いた。
KUONを設立した経緯を教えてください。
これまで僕はパタンナーとしていくつかのブランドで働いてきましたが、創業者の藤原新と知り合い、襤褸を使ったブランドを立ち上げたいという話を聞き、デザイナーとして参加することになりました。僕は岩手県出身だったので襤褸のことは身近に感じていましたし、そのエネルギーの強さも知っていたので、これまでにないブランドができるのではないかと思い、ふたりで一緒に始めることになりました。
おふたりはそれぞれどのような立場でブランドに関わっているのですか?
藤原は法律の仕事もしているので、ファッション業界の人間ではなかったのですが、さまざまな人と出会ったり、東日本大震災をきっかけに被災地に足を運んだりする中で、洋服を通して社会にメッセージしたいと考えるようになったようです。そのため、サステナブルということを大切にしていて、KUONではディレクターとしてコトをつくっていくような役割を担っています。一方、僕はずっとファッションの世界にいて、KUONではデザイナーとして、どちらかというとモノに寄った考え方で服づくりをしています。そのバランスや幅がブランドのひとつの特徴になっているのではないかと感じています。
襤褸を用いるという前提がある中で、それをブランドとしてどのように発信していこうと考えたのですか?
個人的には、襤褸を使っていること自体を前面に出すのではなく、まずは洋服としてのカッコ良さをしっかり表現できるブランドでありたいと考えていました。僕らは、洋服の背景にある技術や文化、流れている時間などを非常に大切にしていますし、そこから深みや愛着が生まれるのは素晴らしいことですが、あまり押し付けにはならないように気をつけています。KUONでは商品の下げ札にQRコードを付けていて、そこから生地や技術の説明などを見られるようにしていますが、あくまで興味がある人だけに知ってもらえればいいですし、受け手それぞれが自由に受け止めるようなものにしたいと考えています。実際にメディアで取り上げられる時の切り口や、置いていただいているショップのテイストは幅広いですし、こちらとしてもあまり対象を絞り込まないように意識しています。
毎シーズンのコレクションはどのようにつくっているのですか?
KUONではシーズンテーマを設定せず、その時々の感覚や気分を大切にしています。その上で、生地や染色の工場や職人さんと話をしながら素材や生地のイメージを固め、パターンに移行していくというつくり方が多いです。僕らは職人さんたちとやり取りをすることが多く、その中で色々なことを提案していただいたり、こちらからもこういうことができないかというご相談をしながら、新しいものを生み出し続けています。
この3月、TOKYO FASHION AWARDの受賞ブランドとしてAmazon Fashion Week TOKYOで行ったショーにも、職人さんを招待されていましたね。
はい。今回は刺し子と裂き織りの職人さんたちをご招待しましたが、皆さんに喜んでいただきました。ショーに限らず、新聞や雑誌などのメディアに紹介されたり、有名百貨店などに入ることで喜んでくれる職人さんもいらっしゃいます。さまざまな技術が集結したブランドであるKUONにとって、職人さんたちは非常に大切な存在で、皆さんがハッピーになることはとても大切だと考えています。そして、そのためには何よりも売上をしっかり伸ばしていくことが必要なんです。
ショー自体もブランドとしては初めての試みでしたが、振り返ってみていかがでしたか?
見せ方に関しては、演出家やスタイリストたちと話し合いをする中で、ハンドパンという楽器を使うことが最初に決まりました。これは2000年代に生まれた新しい楽器ですが、独特の音の儚さや懐かしさがKUONの洋服にピッタリなんです。今回のショーでは、儚さや少年性、時間のうねりといった大まかなテーマのもと、このハンドパンや、円を描くようなモデルのウォーキングなどの演出を考えていきました。会場にお越しいただいた方々の五感に訴えかけることができるランウェイショーというのは、とても面白いと感じました。また、このショーをきっかけにニューヨークのショールームが決まったり、メディアに取り上げられる機会が増えたりと、発信力の強さも改めて感じることができました。
今後のブランドの展望についてお聞かせください。
TOKYO FASHION AWARDを受賞し、海外での展示や東京でのショーを経験したこの2シーズンは、ブランドとして大きな契機になりました。だからこそ、この次にどんなものを見せられるかということが非常に大切になると考えています。5年前には自分がブランドをやっていることなど考えてもいなかったので、5年後、10年後のこともなかなか明確にイメージはできませんが、KUONは長く続けられるブランドだと思っていますし、その時々で自分たちがやりたいことを大切にしながら、乗り越えなくてはいけない課題としっかり向き合い、一つひとつクリアしていければと考えています。
Interview by Yuki Harada
Photography by Yohey Goto(インタビュー撮影)