Interview & Report

茅野 誉之 Takayuki Chino

茅野 誉之 Takayuki Chino CINOH(チノ)デザイナー

TOKYO FASHION AWARD 2019受賞デザイナー

2003年 3月文化服装学院ファッション工科専門課程アパレルデザイン科卒業
2004年 3月文化ファッションビジネススクール修了(現文化ファッション大学院大学)
2007年 MOULD創業
2008年 2008-09A/Wより前身となるブランドを始動
2014年 14S/Sコレクションよりブランド名を“CINOH(チノ)”に改称
2014年 株式会社モールド設立

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ストリートファッションや音楽などユースカルチャーからの影響を感じさせながら、上質な素材使いやエレガントなスタイリングで大人のリアルクローズを提案し、独自のポジションを確立している「チノ」。2018年春夏シーズンからはメンズコレクションもスタートさせ、TOKYO FASHION AWARD2019受賞を機に渡ったパリでの展示でも一定の評価を獲得するなど、ここに来て急速に活動の幅を広げている。ブランドを率いるデザイナー茅野誉之氏に、ブランド立ち上げの経緯や服づくりへのこだわり、今後の展望などを聞いた。

ご自身でブランドを立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。

中学生の頃からファッションが好きで、地元の長野から東京まで来て洋服屋に行ったりしていました。そして、高校1年生の時にラフ・シモンズのコレクションをメディアで見て衝撃を受けたことがきっかけで、自分もデザイナーになりたいと思うようになりました。文化服装学院を卒業してから、しばらくアルバイトをして資金を貯め、2007年に前身のブランドを立ち上げました。カットソーとパンツを軸としたマニッシュなレディスブランドとして6年ほど続けましたが、当時の売上は自分ひとりが食べていける程度のものでした。

その後、新たにチノを立ち上げた理由は何だったのですか?

前のブランド名が英語とフランス語をかけ合わせた造語だったこともあり、読めないと言われることが多かったという単純な理由がきっかけです(笑)。また、ブランドを続ける中で、つくりたい洋服と売るための洋服というものが混在し、自分が本当にしたいことがわからなくなっていたところもありました。結局売れるピースというのは、その時々のトレンドやバイヤーさんの気分に左右されるところがあると感じていたので、ブランド名を変えるタイミングでその部分を思い切って削ってみることにしたんです。自分が本当につくりたいと思うものだけをつくり、それでダメなら辞めればいいと吹っ切れたところがあって、それが結果として良い方向に転がり、オーダーも倍々で増えていきました。

チノのブランドコンセプトには、「自由な発想から生まれる東京のストリートをベースにしている」という一節がありますが、東京のストリートについてはどのようなイメージを持たれているのですか?

文化的背景で考えるとTPOに合わせたファッションが求められるヨーロッパに比べ、日本のファッションにはルールや縛りが少なく、それがひとつの強みなんじゃないかと以前から考えていました。また、本当にカッコ良い人というのは常にストリートにいると思っていて、自分としてもパーティに着ていくような洋服ではなく、街中で着られるような洋服をつくっているつもりなので、東京のストリートという言葉を使っています。

毎シーズンのコレクションをつくっていくプロセスについてもお聞かせください。

最初にシーズンテーマを設定しますが、周囲の人たちと色々な話をする中で決まっていくことが多いです。例えば、東京でランウェイショーを行った2019-20年秋冬シーズンの「グランジ」というテーマは、最近どんなものをつくっても綺麗な洋服になると言われることが多かったので、それならあえて「綺麗」とは真逆にあるグランジというものをテーマにしたらどうなるのだろうと考えたことがきっかけでした。「グランジ」をファッションとして表現する時に、ミュージシャンたちのスタイルを再現するだけでは意味がないので、グランジというものを自分なりに解釈して、これまでのブランドらしくクリーンかつエレガントなスタイルに昇華させることを意識しました。

CINOH 2019 A/W collection runway show(ヒカリエホール Aにて)

このコレクションでは、グランジスタイルに見られるチェックやレオパードなどの柄を、柔らかい質感を持つエレガントな素材に合わせていましたが、こうした素材へのこだわりも強そうですね。

常に新しい雰囲気を持った素材を使っていきたいという思いがあるので、生地はオリジナルでつくることが多いです。シャツなどにしても原料から選んでつくっていますが、その原料の良さもしっかり伝えていきたいと考えています。

2018年からはメンズラインもスタートさせましたが、レディスとメンズでつくり方に違いはありますか?

基本的には変わりません。もともとレディスから始めた理由は、メンズだと自分が着たい服、つまり、Tシャツとシャツ、スラックスしかつくらなくなってしまうと思ったからです(笑)。一方でレディスは自分ではない人物像を設定できるし、着られる洋服の幅もメンズに比べて広いですよね。そのような理由からずっとレディスを続けていたのですが、いまならメンズに関しても、自分以外の人物像をイメージしてデザインできるのではないかと思い、スタートさせたところがあります。

2019年1月にパリで行われたTOKYO FASHION AWARD「 showroom.tokyo A/W 2019」の様子

 

TOKYO FASHION AWARD 2019を受賞し、海外での展示と国内でのショーを行うなど、ブランドとして新たなフェーズに入っているように思いますが、今後の展望についてお聞かせください。

これまで日本の市場ではデザイン性と品質のバランスが良いものをラグジュアリーブランドよりも安い価格帯で購入できるブランドというポジションだったと思いますが、海外ではどうしてもプライスが高くなってしまいます。その中で、これまで以上にオーセンティックな雰囲気や独自性を強く表現していく必要性を感じています。そして、海外でしっかり売っていけるブランドになるためには継続性が何よりも大切になるので、ある程度の長いスパンで、海外で発表を続けていくつもりです。一方、国内では、11月に渋谷のパルコに直営店がオープンします。これまでの卸とは違い、具体的なお客さまの人物像も見えてくるはずですし、年間を通じてラインナップを見てもらえるようになるので、ブランドの世界観を伝える良い場になるのではないかと思っています。

Interview by Yuki Harada
Photography by Yohey Goto(インタビュー撮影)

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