YUIMA NAKAZATO 中里 唯馬
YUIMA NAKAZATO
独学で服作りを開始し、高校卒業後ベルギーアントワープ王立芸術アカデミーファッション科入学。卒業後レディースファッションレーベル「YUIMA NAKAZATO」を立ち上げ、パリを中心に発表を続ける。レディートゥーウェアだけでなく、アーティストへのオーダーメイドデザイン等も手がける。
1985年 東京生まれ / 2004年 アントワープ王立芸術アカデミーファッション科入学 / 2008年 同校マスターコース卒業コレクションが、ANN DEMEULEMEESTER氏よりINNOVATION AWARDを受賞。シューズデザインが認められ、ベルギー王立モードミュージアムに永久保管される。イタリアで開催されるDIESEL社主催の世界大会INTERNATIONAL TALENT SUPPORT #7 にてVERTICE AWARDを受賞するなど、ヨーロッパで数々の賞を受賞 / 2009年 ファッションレーベル「YUIMA NAKAZATO」を立ち上げ、パリを中心に作品を発表。国内外のセレブリティやアーティストへのオーダーメイドデザインを開始。FERGIE(BLACK EYED PEAS)のワールドツアー衣装や、LADY GAGA来日時の衣装を担当。イタリアで開催されるDIESEL社主催の世界大会INTERNATIONAL TALENT SUPPORT #8アクセサリー部門にてYKK AWARDを受賞 / 2010年 東京にてランウェイ形式でメンズウェアコレクションを発表 / 2011年 「V MAGAZINE」の特集にて、NICOLA FORMICHETTI氏より最も注目の若手デザイナーとして選出される。
アントワープ王立芸術アカデミーを卒業後、2009年より自身のブランドをスタートし、さらに、レディ・ガガを始めとする国内外のアーティストの衣装デザインなども並行して手がける中里 唯馬氏。すでに国外でも高い評価を得ている彼だが、まもなく開催されるMercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2012-13 A/Wでは、「メルセデス・ベンツ プレゼンツ デザイナー」に選ばれ、メルセデス・ベンツの新型車からインスパイアされたドレスを制作し、発表予定。また、YUIMA NAKAZATOとしても、ファッション・ウィークのオープニングを飾るショーを行うこととなった。 既存のルールにとらわれず、ファッションの可能性を追求し続ける若きデザイナーに話を聞いた。
今回、メルセデス・ベンツ プレゼンツ デザイナーとして制作した ドレスのお話から聞かせてください。
中里:車、人、衣服の関係性を、ファッションデザイナーの視点からどのように作っていけるかということをテーマにしました。最初にお車を拝見させて頂いた際に、エレガントなボディや力強い走り、先進的なテクノロジーなどを見ていると、まるで生き物のように思えてきたんです。そこから人と車が寄り添っているイメージが湧いてきて、さらに車をひとりの女性に置き換え、その人がどんな人物で、どんな洋服を着ているのかという想像をふくらませていきました。普段こうした着眼点から車を見たことはなかったですし、車をスタートポイントにして衣服をデザインしていくというのは、とても新鮮な体験でした。
車と洋服は素材も目的も大きく異なりますが、今回デザインをする上で 何か共通項を見つけることはできましたか?
中里:車に乗り込む感覚と、衣服を身につける感覚には近いものがあるように感じました。私自身もともと硬質な素材が好きなこともあるのですが、車のボディの光沢感や金属的な表現など、そのまま衣服に落とし込める要素も多く発見しました。そういう意味でも今回はイメージが湧きやすかったです。実は子供の頃から乗り物が好きで、洋服だけでなく車についてもどんなデザインがいいかなど色々想像していたこと等を思い出しました。
YUIMA NAKAZATOとして発表されるショーについてもお伺いさせてください。
中里:具体的にはまだお伝えできませんが、今回のコレクションについては1年以上前から構想をしていました。 今も世界のどこかに実在する、ヌーディストコロニーとよばれるコミュニティーがインスピレーションソースとなりました。人々が裸で暮らしているとされるその空間から、私は奇跡とも思える程の平和な世界を想像したことが制作のきっかけです。私自身が住んでいる町、東京と、そして想像の中にあるユートピアの世界、その2つの空間が一つに融合していくイメージから、デザインをしていきました。
東京でショーを発表するということについてはどんな意識がありますか?
中里:最初にファッションを学んだ地がアントワープということもあり、ヨーロッパに対する意識や影響は今もとても強くあると思います。一方で、現在は日本をベースに活動をし、素材や工場等制作を支えてくれている方々や、発表を支えて下さる方々とのチームワーク、お客様とのつながり等、今後より一層ホーム地での活動を広げていくことの大切さも強く感じています。 アジア、ヨーロッパそれぞれの場での活動を両立させて、上手に関係性を作っていくことができれば、今後のさらなる発展につながるのではと考えています。
アントワープ王立芸術アカデミーでの4年間は、中里さんにとってどんな経験でしたか?
中里:アントワープは東京と違い、とても小さな町で、時間の流れ方も穏やかな空間でした。ファッションを学び始めるタイミングに、自分自身と向き合う時間を多く持てたことでデザインの基盤が築かれたように思います。当時は、レディスウェアを学びたいという思いが強くありました。レディスウェアの装飾的な要素や身体の捉え方、構造的な部分にとても興味があり、そしていずれそれらをメンズウェアに取り入れたいという思いが当時からありました。
そうしたレディスウェアの感覚は、YUIMA NAKAZATOで発表しているメンズウェアにも取り入れられているように感じます。
中里:そうですね。もともとのスタートは、既存のメンズウェアに着たいと思えるものがなかったことが、自分で衣服を作り始めるきっかけとなったということもありますし、それは今も大きな原動力になっています。ファッションに強く興味を持ち始めた高校生の頃、レディスウェアを自分のサイズに合わせてリメイクすることも多くありました。
既存のファッション、メンズウェアの概念に一石を投じるようなクリエイションの背景には、そうした環境があったのですね。
中里:そうかもしれません。さらに、日本の男性のあり方には古来独特の文化があり、性の曖昧さというものを神聖なものと捉えたりしていました。そのことが、現代日本のファッションへとつながっているのではと思い、とても興味を持っています。 また、そうした価値観は今後のメンズファッションを考えていく上でも、大切な要素となってくるのではないかと考えています。また、私の両親はとても広い視野で物事を考え、型にはめずに私を育ててくれた事が大きく影響していると思います。
YUIMA NAKAZATO 2011 S/S デビューコレクションより
並行して手がけているアーティストの衣装などの仕事には、また違う感覚で取り組んでいるのでしょうか?
中里:人一倍個性を表現し、他人とは違う何かを求めている人たちに対して洋服をデザインしていくということは、私にとってとても心踊らされる行為です。また、アーティストとのやり取りからいろいろな発想が生まれることもあります。それは自分のブランドへも応用できますし、今は双方の関係性の中で、より良いものが作れるようになっています。
ベクトルが異なるふたつのクリエイションを並行して手がけていく中里さんのようなやり方は、二極化が進んでいるように思える現在のシーンにおいて、有効なアプローチなのかもしれないですね。
中里:そうかもしれません。ただ、そうした市場の状況を意識しているわけではなく、自分がどうあるべきか、何ができるかということを成長のプロセスの中で突き詰めてきました。自分と向き合うというアントワープで学んだことを繰り返し、その結果今のようなあり方になっているのだと思います。