Interview & Report

茅野 誉之 Takayuki Chino

茅野 誉之 Takayuki Chino CINOH(チノ)

CINOH Designer

2004年 3月文化ファッションビジネススクール修了(現文化ファッション大学院大学)
2007年 MOULD創業
2008年 2008-09A/Wより前身となるブランドを始動
2014年 14S/Sコレクションよりブランド名を“CINOH(チノ)”に改称

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TOKYO FASHION AWARD 2019の受賞後に開催されたパリでの展示会以降、素材からこだわって作られる丁寧なものづくりと独自のコンテンポラリースタイルが評価され、海外でも注目を浴びるブランドへと成長したCINOH。Fashion Week TOKYOへの参加は2019年から2年ぶり。ブランド立ち上げから現在のビジネスについて、今回参加を決めた経緯やブランド、デザイナーとしての展望などを、デザイナーの茅野氏に伺った。

高校生のころからデザイナーになると決めていて、リメイクなどもしていたと伺いました。 洋服作りには昔から興味があったのでしょうか。

通っていた公立高校が制服ではなく私服だったことも関係していると思うんですが、元々ファッションが好きだったので、漠然と将来はスタイリストかデザイナーになろうかなと。悩んだ結果、自分的にはデザイナーの方が挑戦しがいがあるんじゃないかなと思って決めましたね。当時は、部活やスケートボードに熱中しつつその傍らでバイトもしながら東京に洋服を買いに出かけるような高校生活だったんですが、ある日デビューして3シーズンくらいのRAF SIMONS(ラフ シモンズ)を雑誌で見てかっこいいと思い、すぐに東京に買いに行きました。高校生なので高い服は月に1着くらいしか買えないじゃないですか。だからって他の安い服を買ったり、他の人と同じような服は着たくないと思っていたので、ボロボロの服をリメイクし始めたんですよ。好きで始めたというよりは、それしか方法がなかったって感じですね。

元文化服装学院学院長の故小池千枝先生の言葉がファッションの道へと進むきっかけになったそうですが、どんな言葉だったのでしょう。

東京に遊びに行った帰りに、最寄駅まで親に車で迎えに来てもらったんですよ。車内でちょうど進路の話をしていたときに、「葉脈の美しさはドレープに通じるものがある。だから自然を見てきた人間にはドレープの感覚がある」といったような小池千枝先生の言葉がラジオから流れてきて。その時、ラフ シモンズも田舎育ちだったと記憶していたから僕もいけるかなっていう確信にかわりました。単純ですが(笑)。

ブランドコンセプト「一瞬の時の中に存在するだけでなく、ワードローブ・想い出に残るモノ創り。」に込められた想いを伺えますか。

簡単にいうと、若いころに初めてデートした時の服はこれだとか、自分の日々の強い想い出の中に洋服が残っていたらいいなと。さらに服にシーズンのテーマ性があると、“何年のあの時の洋服”って記憶にリンクしますよね。一方で90年代後半に見られたようなシンプルなシャツをスケーターが第一釦まできちんと襟を締めて滑っているような姿も、エクストリームなのにクリーンでかっこいい。違和感が溶け込んでかっこいいとなった時が、僕の中ではモードだなって感じています。なので一見タイムレスなものでも時代感を作ることがあります。 スタイルを持っている人は時代性があろうとタイムレスな洋服であろうとその人のワードロープの中で生きるし、記憶の一部と洋服が一致するような時間を感じる服がいいなと思っています。シーズンを象徴するようなテーマ性の強いデザイン、エッセンシャルなデザイン、その両方ともに記憶に残るモノづくりをしたいなと思っています。

これまでに影響されたブランドやデザイナーはいますか。

デザイナーのインタビュー記事や本を見ることは多かったですね。先ほどお話ししたラフ シモンズは作るビジュアルが単純にカッコよくて、デザイナーになりたいと影響を受けてますし。2000年ごろだったかな…、山本耀司さんが「何かを成し遂げたい人はどこかに就職するべきじゃない」というような話をしていた記事を読んで、確かにそうだよなって、じゃあ就職しなくていいかっていう考えになっているんで影響されてますね(笑)。

モノづくりにおけるインスピレーションは、どんなことから刺激を受けますか。

生活していて入ってくる情報が多いですね。CINOHをやっているなかで、何をやっても作るものが綺麗になるよねって言われるんですけど、それならいわゆるダーディーなものも綺麗にできるのかなと思いはじめて。FWに初めて参加した時はグランジをテーマに、参加2回目のシーズンは自分が通ってこなかったフレンチカジュアルやアメカジみたいなものを、いかにエレガントに作るかというところから始まったんですよ。ネルシャツをどうやったら高級感があって着やすいようにできるかなって考えて作ってみたり。なので、カジュアルなものをドレスアップさせるという感覚はしばらく続きましたね。先ほど話していたスケボーしているけど綺麗にシャツを着こなして滑るみたいなものがかっこいいと思っている節もあるので、自分の中では自然な流れでもあると思いましたが。

あとは社会情勢もモノづくりという点において刺激されることはあります。最近ファッション業界ではジェンダーレスやダイバーシティといったことからユニセックスなものが増えてきているので、ウィメンズとメンズをやっているブランドとしては逆に女性らしい、男性らしいというそれぞれのシェイプを物理的な面で作っていくことがCINOHには必要だと感じています。特にウィメンズはマスキュリンな雰囲気がベースにあるためそういったものとして認識されやすいかなと危惧しているところあります。簡単な例だとウィメンズはウエストに重点を置いてデザインを作ったり、メンズは逆にボックスっぽく作ったり。身頃をゆったりさせて袖を極端に細くするとか、そういうバランスが綺麗だったら着用できる人の幅が狭まってもそれを選択する。布と体の空間がどのくらいあれば美しく見えるのかを考えて作っているので、ミューズをはっきりさせたデザイナーのエゴを表現したものもあってもいいのかなと。とはいえ作ったものを選ぶのはお客様なので、自由に着ていただけたらと思っています。

今回2年ぶりにRakuten Fashion Week TOKYOに参加した経緯と、デジタル配信を選んだ理由を教えていただけますか。

プロモーションの場を設けたかったのが大きな理由ですが、S/Sの開催時期が早くなったことと、デジタル配信が可能になったことですね。以前は展示会を終えて次のシーズンの作業に入っている段階で前期のプロモーションをするという複雑さがありましたが、今回は展示会を終えた後に撮影するという自然な流れで取り組めたので良かったです。

今回のコレクションテーマやショーの構想について教えていただけますか。

CINOHはミニマルで無機質なイメージを持っている方も多いと思うんですが、テクスチャーや洋服が持っている感情のようなものを見ていただけたらと思い、それを感じるネイチャーな要素を取り入れました。これまでのショーはすべて室内で自然光を表現するような作りにしていましたが、今回はデジタルで発表できるが故に日中の屋外で行い、本来見せたかった自然光で見せるショーになっています。シチュエーションが違うと見え方は変わってくると思うので、新しい側面を発見していただけると嬉しいです。 テーマは問題なく使用できれば入りの曲でわかるかなと思います。

ブランドとして、またデザイナーとして今後の展望を教えてください。

コロナ後は海外のアプローチを再開して取引先を増やしていきたいですね。国内では2019年に直営店をオープンしたんですが、ブランドの世界観を伝える場所をもっと作っていきたいと思っています。僕はデザイナーの想いやスタッフさんの想いを聞いてから洋服を買いたいと思っていて、昔からブランドについて話ができる販売員さんがいるお店で購入する事が多いんですが、洋服って、接客して購入してもらうところまで、さらにいえばアフターケアまでがブランドだと思うんですよ。組み合わせも提案できて、お客さまの反応を知ることもできる。こだわって作っている素材のことをもっと伝えた方がいいよと展示会の時などに助言をいただくことがあって、それはブランドとして当たり前だと思っていた部分があったのであえて伝える必要もないのかと思っていましたが、やはり表層的な部分だけでなくそういった事も含めたブランドの想いを知っていただける場所を作っていけたらと思っています。

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